徒然なるままに坂口友英|元イタリアンシェフの挑戦!

坂口友英の毎日の挑戦!と意気込んでおりましたが、ゆるーりとした生活を思うままに書き綴ります。元シェフらしく、毎日の料理や食事などが多いです。

日本の心を思い出す時

こんばんは、坂口友英です。

先日、散歩をしていたら、もち米を蒸した時の、独特の匂いを感じた。
釣られるように、ついつい足がいつものルートから離れてしまう。
そこは幼稚園だった。子ども達の歓声が響き渡る。こんなところに幼稚園があるなんて、全然知らなかった。

たった数十メートル、いつものルートから外れただけなのに。
どうやらもち米の蒸された匂いも、ここからしているようだった。
植え込みの向こうに見える園庭には、赤白帽子を被った子ども達がたくさん集まっていた。
子ども達の視線の先には、臼と杵。杵の横には大きなボール。多分、あのボールは水が入っているんだろう。
それを見て、ぼくはようやく納得した。臼と杵、そしてもち米。餅つきの準備だ。
どうやらこの幼稚園では、子ども達に餅つきを体験させようとしているようだ。
ぼくは思わず、興味津々に餅つきの準備風景と、それを期待の目で見つめる子ども達を眺めてしまった。
臼と杵を使って餅をつく家庭が、一体今の日本にどの程度いるのだろう。
子ども達はこういう場で体験しない限り、サルカニ合戦に出てくる臼のことも、意味がわからなくなってしまうのだ。
興味津々に臼と杵を交互に見ている子ども達。その目はキラキラと輝いて見えた。
そこへ一人の先生が、湯気の立った布巾に包まれた何かを運んできた。中身は見えないけど、わかる。あれは蒸されたもち米だ。
それを臼に入れると、子ども達の歓声が上がった。駆け寄ろうとする子どももいて、かわいらしい。
先生がお手本を見せた後、子ども用の小さな杵で順番に餅つきを行うようだ。最初の一人が杵を振り上げたところで、ぼくは立ち止まっていた足を再び動かした。
それでももち米の甘い香りはまだぼくに届いていて、子ども達の興奮した声も耳に届いている。
きっと今日の給食は、皆でついた餅を食べるのだろうな。
日本に古来からある料理を、古来からの方法で作り、食べる。なんて素敵な時間なんだろう。
正直に言ってしまえば、子どもの力で時間をかけてついた餅は、味が落ちる。なんだったら機械でついた餅のが美味しくなってしまう。
だけど、そういう問題ではない。あの子たちにとっては、自分達でついた餅は、最高の味になるだろう。
食育とは、きっとこういうことを言う。美味しい料理も大切だけど、作る過程を教えることも大切なんだ。
料理を愛する人間として、こういう取り組みはとても嬉しい。
あの子ども達の中に、今日のことをいつまでも覚えていてくれる子がいればいいなと、そう思った。