この街、住んでる人も風景も最高に気に入ってます
こんにちは、坂口友英です。
ぼくが暮らしている街は、今から20年ほど前に、当時里山だった丘陵地帯を切り崩して開発された住宅地で、ちょっと高級な雰囲気のある洒落た佇まいの街である。
都心からは少し離れたところにあり、元々自然の多い所で、開発時にはそうした自然を意識的に多く残すようにしたのか、4月から6月の春から初夏に掛けては、ウメ、モクレンから始まり、サクラ、フジ、ツツジやバラ、ユリなど草木の花々が目を楽しませてくれる。
ぼくはこの街の四季折々の風景を見て回るのが好きで、よく散歩に出掛ける。
同じ街で7年も暮らし日々散歩をしていれば、段々と風景も見飽きてしまい、回数が減ってきそうなものであるが、そんな兆しは微塵もない。
ぼくが好きなこの街の風景は、華々しい春や初夏よりも、むしろ晩秋の情景がたまらない。
秋が深まった、よく晴れた日の夕方は、必ずと言っていいぐらい、街の外れの高台にある公園に出掛ける。
この公園は、まだここが里山だったころには数軒の農家があり、畑が広がっていたと、家の近くで顔見知りになった、古くからここに住んでいる住人から聞いたことがある。
公園の外れにはまだその頃の名残で、今でも畑が多少残っている。
夕方近くに散歩に行こうと何時もの公園に出掛けることにしました。
その公園は家から10分ぐらいの所にあり、高台を登り切った場所には広い芝生の広場がある。
芝生の直ぐ外側には、2台ずつペアで、2ヶ所に木製のベンチが置かれている。
ぼくはここに来ると、何時もこのベンチに座って、何を考えるでもなく景色を眺めて寛ぐのが習慣になっていました。しかし、今日は何時もと少し様子が違っていた。
隣のベンチに子犬を連れた60過ぎぐらいのオジサンが腰掛けてきたのである。それほど社交的ではないぼくは、夕日で真っ赤に染まった西の地平を黙って見つめていた。
すると、オジサンが連れていた子犬がぼくの足元に寄って来て、しっぽを振るではないですか。そうなると、動物は決して嫌いではないので、子犬の鼻先に手を差し出すと、相変わらずしっぽを振ったまま差し出した手をペロペロしてきます。「テリアですか?」と声を掛けると、「テリアとの雑種です。」と返ってきた。
そこから犬が取り持つ縁で、ぼくとオジサンとの会話が始まった。
オジサンは既に退職して年金暮らしで、特に趣味もなく、これからの余生を如何に過ごすかで悩んでいるようだ。
ぼくも趣味らしい趣味はないので、「料理でもなさっては? ぼくは多少心得があるのでよければお教えしますよ。」と言うと「料理ですか。」あまり乗り気ではなさそうでした。
「料理の心得があるんですか?」と聞かれ、「元シェフをしていました。」等々、そんな身の上話や世間話をしている内に、真っ赤だった西の空も薄暗くなり始めていた。
別れ際にぼくの方から「4丁目です。」するとオジサンからは「私は6丁目です。開店したら是非寄らせてもらいますよ。」と返ってきました。なんか温かいものを感じなから家路に着いた。